“Busted”「パクられる」「バレる」

“Busted”「パクられる」「バレる」

J Dilla(JayDee) “Fuck the Police”

J Dilla (JayDee/James Dewitt Yancey)のトラック”Fuck the Police”の中からスラングのタームをご紹介します。

<Lyrics>

“Turn on the TV. What’s this? Another cop busted for illegal business. They outta control, They outta their mind. They pullin you over, They hoppin inside.”

テレビをつけたらなんだこれ?また警官が違法な取引で捕まってる。あいつらはネジが外れてる。頭がイカれてる。車を止めて来て、飛び乗ってくる。

Busted for: 「〜でパクられる。捕まる。逮捕される。」「(悪事が)バレる。」

会話では非常によく使われますがスラングの言い回しになるので正式な表現であれば、“Get arrested for” ”Get caught for” のような言い回しを使うのが適当です。”Busted”には他にも「壊れた。怪我をした。使い物にならなくなった。」 「破産した。」「(悪事が)バレる。」 といった意味あいもあります。

例文1. Busted for

A : “I haven’t seen AJ in a while since he got busted for DUI the other day. You know what happened to him?”

B : “Oh, his parents sent him to an alcohol rehab clinic, so he probably won’t be able to come to work for the next couple months.”

A : 「こないだAJが飲酒運転でパクられてから彼暫く見てないけど。何があったか知ってる?」

B : 「ああ、なんかご両親がアルコール依存症の更生施設に入院させたらしいから、向こう数ヶ月は出社できないかもね。」

例文2. Be/Get busted

A : “My wife found out I was having an affair with the lady next door.”

B : “Ohhhhh, you’re so busted man…”

A : 「俺が隣の家の奥さんと不倫してる事、嫁さんに気付かれちゃったよ。」

B : 「あああああ、やっちゃった(バレちゃった)ねお前。。。」

COLUMN – ヒップホップとBLM運動

僕が大好きなDJ/MC/ビートメーカーのJ.Dillaの曲です。病気によって32歳という若さで既に亡くなってしまいましたが、有名なところではEminemの自伝映画 ”8Miles”の挿入曲としても使われたPharcydeの”Runnin”や、Bobby Caldwellの曲をサンプリングしてヒットしたCommonの”The Light”等の楽曲のプロデュースをした事で知られています。

この曲の背景を語るにはアメリカの歴史と社会情勢に関する話を避けては通れないのですが、昨年、取り押さえられた黒人男性が警察官に路上で頸部を何分間にも渡り圧迫された末に死亡したGeorge Floyd事件に端を発して大規模な黒人差別反対運動(抗議デモに留まらず一部暴徒の破壊・略奪行為などにも波及した)が全米各地で展開されたことは記憶に新しいかと思います。

ここ数年はスマートフォンの急速な普及により言葉や活字よりも一般市民の目線で捉えた実際のリアルな映像によって世界中に事件が伝わる事が多くなりました。緊迫感が直に伝わるその映像を含んだニュース形態からもアメリカの歴史や文化にあまり詳しくない人でも今回の件では事態の異常さとともにアメリカに於ける人種差別問題の根深さと深刻さを肌で感じ取った人も多いかもしれません。

しかし過去にもスピード違反で車の停止を求められた黒人男性がその後路上で複数の警察官に集団で暴行を受けたRodney King事件が発端となってロス暴動が勃発するなど、黒人に対する警察の権力の濫用による暴挙(Police Brutality)とそれに対する抗議というのは、2010年代にSNSの発信力を利用する形で一気に世界規模で広まった ”Black Lives Matter”ムーブメント以前、マーティン・ルーサー・キング牧師やマルコムXが白人と平等な権利を求めたり同胞に白人社会からの独立を呼びかけたりした公民権運動の頃からアメリカで半世紀以上に渡って繰り返されて来た事でもあるのです。(それまでは黒人は抗議の声を上げる事すらできなかった時代です。)

90年代以降になっても依然として正当な理由なく黒人達が白人によって傷つけられたり命を落としたりする事件は後は絶たず、警察官や地域の自警団のメンバーなどの加害者の白人達が処分を免れるという構造も含めこのイシューは人種の坩堝でありながら白人層が圧倒的な力を堅持し続けるアメリカ社会の闇を象徴する問題でもあります。上にシェアした動画の冒頭に並ぶ名前はそれらの事件の被害者達の名前です。

僕も学生の頃、1990年代にロサンゼルスで生活していましたが、Rodney King事件はその渡米直前に起きた事件で、治安的にもアメリカに行く事が躊躇われたのを覚えています。

こういった社会的な背景からも想像がつくと思いますが、アメリカ社会で生活する有色人種は常に差別思考を持った白人や警察官から根拠のない言いがかりをつけられたり、理不尽な嫌がらせや暴行を受ける事に少なからず怯えて暮らしているような部分がある事は否めません。

より有名なものでN.W.A.のレコードに趣旨も似た同じタイトルの曲がありますが、その後にリリースされたJ.Dillaのこの曲も彼が住んでいたデトロイトの実家の近くに警察署があった事から、事あるごとに警官から車を停車させられ嫌がらせを受けたという彼自身の若い頃の経験を元に作られた曲だそうです。

有色人種には貧困や社会的に恵まれない立場からかギャング文化が浸透していて犯罪率が高い事も事実です。また肌の色問わずですが、ギャングや犯罪集団が警察と路上で銃撃戦を繰り広げるような事もアメリカでは珍しくありません。家に帰ってテレビをつけるとBreaking News(臨時ニュース)で犯罪集団との攻防中、街中を警察側の装甲車が砂埃を上げて走っている映像が普通に映っていたりします。

そういった事もあってアメリカの警察というのは日々相当な身の危険を感じながら職務に当たっているというのも事実で、それが不幸にも過剰な攻撃性となって検挙するべき相手を痛めつけたり殺してしまう結果になるという事もあるかもしれません。ただ一方で権力を傘にきて、特に貧しい地区のマイノリティーの命を軽んじ正答な理由もなく簡単に殺したり、彼らの弱みに漬け込んで配下に置き、手下や使い走りのように搾取して銃や麻薬の売買を取り仕切って金儲けをするような汚職警官もいます。

日本では映画の中の出来事としか思えないこういったバックグラウンドがあって、ヒップホップミュージックに警察を敵と見なして非難するようなこの手の曲が数多く存在するのです。

響き合わない連鎖を繰り返してきたように思えるこの問題ですが、去年の抗議デモの映像の中には過去に観たものとは少し違った特徴が映し出されていました。問題の被害者側の当事者である黒人だけでなく、若年層を中心とした白人もまた多くデモに参加していたという点です。これは解釈が分かれるところかも知れませんが一つの仮説としては、多様化するコミュニティーや社会生活で人種間の距離が以前より近くなった事でお互いに対しての正しい理解が深まったという事、保守派とリベラル派の間でくっきり世論が分割されたトランプ政策下でこの運動がリベラルの象徴となった事に加え、黒人の音楽、映画、アートといった文化が近年白人の若者層にも身近なものとして受け入れられ浸透する中で、そこにこめられた黒人達のメッセージが人種を越えて自分事として届き始めたのではないかという事です。

僕も最初はただのエンターテイメント、好みのスタイルとしてヒップホップを含む黒人音楽を聴き、Blaxploitation FilmやSpike Leeを観ている一人でしたが、それらが自分の中に浸透していくにつれてその本質的な内容に疑問や興味を持ち始めた事で、彼らの作品の中に反映された声の本当の意味を理解したいと思うようになりました。

”Hip-Hop It’s Bigger than the Government” (ヒップホップは政府より強大だ。)

Erykah Baduの”Healer”という曲にこんな一節があります。彼女によるとこれは音楽や文化が人々にもたらす連帯感は、世界であらゆる紛争や問題の発端となっている政治や宗教が持つ力さえをも凌ぐ、と言った意味合いで書かれたリリックだそうです。

「所詮」と捉えられがちな娯楽や文化が実は人々を楽しませるだけでなく、同じビートやライム、ストーリーを共有する人達の中にそれぞれの人種や性別、立場を越えた一体感や互いへのエンパシーを生み出し、ロングタームで見た時にひいてはそこで語られ描かれた問題を世の中に提起し、変化を促す事にも通じるような強い影響力へと繋がっているのかもしれません。