“Pays the bills”「生活を立てる」

“Pays the bills”「生活を立てる」

Erykah Badu “Otherside Of The Game”

Erykah Baduのソウルの金字塔とも言える名曲、”Other Side Of The Game”からイディオムを紹介します。

<Lyrics>

“What you gonna do when they come for you
Work ain’t honest but it pays the bills (Yes, it does)
What we gonna do when they come for you
Gave me the life that I came to live”

彼らがあなたを追って訪ねてきたらどうする?
真っ当な仕事じゃなくてもこれも生活を立てる為。
でももし彼らがあなたを追って訪ねてきたら?
私が人生で置かれてるこの状況をあなたが作り出しているんだ。

Pay the bill : 「生活を立てる。食い扶持を稼げる。」

“pays the bill” 「(日々の請求を支払えるとの意味合いから)生活できる。生活を立てられる。食い扶持を稼げる。」

同様の意味合いで”Pay the rent” といった表現なども使われます。

例文1. Pay the bill

A : “Why are you still sticking to that shit job anyways?”

B : “What do you care man? At least it pays the bill.”

A : 「だいたいなんでまだあのクソみたいな仕事にしがみ付いてるんだ?」

B : 「ほっとけよ。少なくともそれで生活は立てられるんだ。」

例文2. Pay the rent

A : “Dad, I don’t want to end up wasting my life just to make a living.”

B : “Listen son, I understand what you mean, but you need to start facing the reality,
because dreams don’t pay the rent.”

A : 「お父さん、俺は生活する為だけに働いて無駄にするような人生は送りたくないんだ。」

B : 「まぁ聞けよ、言ってることは分かるが現実を直視しないといけないぞ、 夢では食っていけないんだから。」

COLUMN – ザ・ダークサイド・オブ・B-Boy コミュニティ

Erykah Baduの単独ライブに行った時ですが、日本にも関わらず会場に入るにあたって (バンドが帯同させて来たのか、日本の主催者側が用意したのかは不明ですが) 黒人の巨漢セキュリティガードにFrisk(武器等を所持していないか、肩から足まで服の上から手で触って行うセキュリティチェック)されたのはアメリカにいた頃にも経験がないなかなか新鮮な体験でした。

Hip-Hopの音楽やファッションが好きな人ならお馴染みかと思いますが、黒人コミュニティではHustler(ストリートで違法な稼業を生業にする者の通称)という言葉がよく使われます。この曲はその手の裏稼業で食い扶持を稼ぐ男性(但し高等教育機関を卒業しているようなニュアンスの部分があり、特に他に選択肢がないような境遇という訳でもなさそう)との間に子供を授かった女性の精神的な葛藤を歌っている曲です。最初に聞いた時は個人的にはなかなかのミスマッチ感を覚えた記憶がありますが、あまりに美しく完成されたフレーズに乗せて語られるのは生き方を変えない彼への変わる事のない愛とその事で生じた子供を産む事への躊躇です。

アメリカでは音楽で成功している(特にHip-Hopジャンルの)アーティストの中にはストリートギャングの出身で、ドラッグの密売、売春の元締めや詐欺を働いて生活を立てていたような人もたくさんいます。人種的な背景からも貧しく、身分も証明できないような不良達がストリートで生きていく為にはそもそも生活をしていく為に選り好みをしているような余裕がなく、そういった中で結果的に貧しい地区に住む黒人達が手を染める違法な商売がストリートの生き方 = 既定路線の進路として確立、定着していってしまったというのが本当のところでしょう。

Hip-Hopでよく耳にする「ミックステープ」も、元々は世の中で流行している音楽をDJ達が小遣い稼ぎに違法にリミックス(繋ぎ合わせ)して安価に売っていたもので、オフィシャルで販売されているテープやCDに手が届かない貧しいストリートの若者達が主にこぞって買っていた経緯から、海賊版(Bootleg)商品の販売として一時アメリカの大都市では警察の摘発の対象となりました。(ただ現在では、Soundcloudなどインターネット上の無料サービスで特定のレコード会社やレーベルに属さないミュージシャンや愛好家が誰でも自分のリミックス作品をアップロードして配信できる事から規制が追い付かず、盗用されたアーティスト側から提訴されない限りは事実上黙認されている状況のようです。Hip-Hopでは他にも既存の曲の一部分や短いフレーズをビートの上に切り貼りし、更にその上に音やラップを重ねて作品にするサンプリングというHip-Hop創設期から継承されてきた技術がありますが、これも無許可で音源を利用すると著作権法に抵触する為、つい先日亡くなったBiz Markieのサンプリング訴訟に代表されるような裁判事案に発展した実例がいくつもあります。

僕がErykah Baduの音楽と出会ったのは今も同じロケーションに店を構える青山のSpiral Cafeの試聴ブースでMama’s Gunを聴いた時だったと記憶しています。当時通っていた大学の近くということもあって、授業の合間や昼休みに時間を見つけては僕はよくここへ立ち寄って気になるレコードを色々と視聴させてもらっていたのですが、以来彼女だけでなく彼女と一緒に音楽を作る周辺のアーティストたちを片っ端から隈なくリサーチして掘り下げるようになりました。ファンク・ソウル・ジャズ・R&B・ヒップホップ、ジャンルを飛び越えたこの黒い音楽の洗礼は今に至るまでの僕のブラックミュージックへの傾倒の発端だったと言っても過言ではないかもしれません。

2000年代に入って全く新しいブラックミュージックのムーブメントをErykahと共に創造してきた圧倒的なタレント集団、Soulquarians。The Rootsのドラマーで公私共に親交の深いメンターQuestlove、伝説となったデトロイト出身の天才プロデューサーのJ.Dilla、テキサス州ダラスの高校の同級生で度々互いの作品でコラボレートしあってきたトランペッターのRoy Hargrove、”Love Of My Life”で共演したかつて私生活でもパートナーだったラッパーのCommon、彼女のアルバムでバックボーンの役割を果たすキーボーディスト兼プロデューサーのJames Poyser、Blackstarとしての活動でヒップホップ史に名を刻んだMos Def(現在Yasiin Beyとして活動)とTalib Kweli、さらにポストSoulquarians期、彼女をサポートメンバーとして支える鬼才ベーシストThundercat、その革新的なドラミングでこの後間もなく音楽界にその名を轟かせる事となるChris Dave…

数え上げればきりがありませんが皆彼女との関係や親交のある人物達で、彼女との音楽的コネクションをきっかけとして僕がその存在を知り、音楽を聴くようになったアーティスト達です。彼女の周辺に集まるアーティストはタレント(才能)・クオリティー(質)・クリエイティビティ(創造性)に於いてまず間違いがない。僕にとって彼女はアーティストをDigする為の品質保証の基準とでも言えるような側面さえあります。

勿論、何よりErykah自身の音楽が、その時々によってアプローチが全く異なる自由な作品作り含め全てのフェーズで僕にとっては圧倒的に肌に合う、脳内でアドレナリンやドーパミンをパンプしてくれる作用のあるドープなものです。

今回シェアしたVH1 Liveでの演奏ですが、J.Dillaを彷彿させるような中毒的なビートのズレを16分と6連符の細かい組み合わせによって生のドラミングに落とし込む独特の奏法を生んだ(初期のRobert Glasperのバンドメンバーとしても有名)次世代のドラマー Chris “Daddy” Dave、うねるようなグルーヴと間を使い分けるBraylon Lacy、そしてErykahのバックバンドの頭脳であるR.C.Williams 他、才能豊かな素晴らしいバンド編成でErykahのデビューアルバムの美しいソウルチューンを見事に抑揚が効いたダイナミックな大曲に仕上げています。